か、私は結婚以来、ここの家族一同には、いろいろと厄介《やっかい》をかけている。つまり、たのみにならぬ男なのだから、義妹や義弟たちから、その家の事に就いて何の相談にもあずからぬのは、実に当然の事であって、また私にしても、そんな甲府の家の財産やら何やらには、さっぱり興味も持てないので、そこはお互いにいい按配《あんばい》の事であった。しかし、二十六だったか七だったか、八か、あらたまって尋ねて聞いた事も無いので、はっきりした事は覚えていないが、とにかくまあ、その娘ひとりであずかっている家に、三十七の義兄と三十四の姉が子供を二人も連れてどやどやと乗り込んで、そうしてその娘と遠方の若い海軍とをいい加減にだまして、いつのまにやらその家の財産にも云々《うんぬん》、などと、まさかそれほど邪推するひとも有るまいが、何にしても、こっちは年上なのだから、無意識の裡《うち》にも、彼等のプライドを、もしや蹂躙《じゅうりん》するという事になってやしないだろうか、とその頃の実感で言えば、まるで、柔い苔《こけ》の一ぱい生《は》えている庭を、その庭の苔を踏むまいとして、飛び石伝いに、ひょいひょいとずいぶん気をつけて歩いて
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