我らもし先祖の時にありしならば、預言者の血を流すことに与《くみ》せざりしものを」と。かく汝らは預言者を殺しし者の子たるを自ら証《あかし》す。なんぢら己が先祖の桝目《ますめ》を充《みた》せ。蛇よ、蝮《まむし》の裔《すゑ》よ、なんぢら争《いか》でゲヘナの刑罰を避け得んや。
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L君、わるいけれども、今月は、君にむかってものを言うようになりそうだ。君は、いま、学者なんだってね。ずいぶん勉強したんだろう。大学時代は、あまり「でき」なかったようだが、やはり、「努力」が、ものを言ったんだろうね。ところで、私は、こないだ君のエッセイみたいなものを、偶然の機会に拝見し、その勿体《もったい》ぶりに、甚《はなは》だおどろくと共に、君は外国文学者(この言葉も頗る奇妙なもので、外国人のライターかとも聞えるね)のくせに、バイブルというものを、まるでいい加減に読んでいるらしいのに、本当に、ひやりとした。古来、紅毛人の文学者で、バイブルに苦しめられなかったひとは、一人でもあったろうか。バイブルを主軸として回転している数万の星ではなかったのか。
しかし、それは私の所謂あまい感じ方で、君たち
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