いなものだわ。
(清蔵)(気抜けした態で)それは、どんな意味です。
(数枝) 意味も何もありやしないわ。見ればわかるじゃないの。日本は、もう、(突然、花火をやめて、袖《そで》で顔を覆う)何もかも、だめなのだわ。(袖から顔を半分出し、嗚咽《おえつ》しながら少し笑い)そうして、あたしも、もうだめなのだわ。どんなにあがいて努めても、だめになるだけなのだわ。
(清蔵)(何か勘違いしたらしく、もぞりと一|膝《ひざ》すすめて)そう、そうです。このままでは、だめです。思い切って生活をかえる事です。睦子さんひとりくらいは立派に私が引受けて見せます。私の家はご承知のようにこのへんでたった一軒の精米屋ですから、米のほうは、どんなにしたってやりくりがつくのです。いまは精米屋が一ばんです。地主よりも誰よりも米の自由がきくのです。
(数枝)(全然それを聞いていない様子で、膝の上で袖の端をいじりながら)いつから日本の人が、こんなにあさましくて、嘘つきになったのでしょう。みんなにせものばかりで、知ったかぶってごまかして、わずかの学問だか主義だかみたいなものにこだわってぎくしゃくして、人を救うもないもんだ。人を救うな
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