う変り物の扱いを受けます。どこか、かたわなのではないかなどと、ひどい噂《うわさ》まで立てられます。それでも、私はあなたを忘れられなかった。あなたはもう、よそへお嫁に行ったのですし、あなたを忘れなければならぬと思っても、どうしてもそれは出来なかったのです。それには、理由があるのです。数枝さん、私は島田哲郎の小説を読んだのです。あなたの御亭主は、どんな小説を書いているのか、妙な好奇心から東京の本屋に注文して島田哲郎の新刊書を四五種類取り寄せました。取り寄せなければよかった。あれを読んで私はどんなにみじめに苦しんだか、あなたには想像もつかないでしょう。島田さんの、いや、島田の小説に出て来るさまざまの女は、何の事はない、みんなあなたです。あなたそっくりです。あのひとがあなたをどんなに可愛がっているか、また、あなたも、どんなにはり切ってあのひとに尽しているか、まざまざと私にはわかるのです。これでは私があなたを、忘れようたって忘れられないじゃありませんか。あなたが私からいくら遠く離れていたって、あの本を読めば、まるであなたたちが私の隣り部屋にでも寝起きしているように、なまなましく、やりきれない気が
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