玄関のあく音。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(継母のあさの声) お利口だったねえ、お利口だったねえ。寒くっても、ちっとも泣かなかったんだものねえ。
(睦子の声) そうしてそれから、睦子なんか、うんと役に立ったね?
(あさの声) そうとも、そうとも。おばあちゃんの財布を持ってくれて落さなかったんだものねえ。ずいぶん役に立った。とっても役に立った。
(睦子の声) だからこんども、おつかいに連れて行くのね?
(あさの声) 連れて行くとも、連れて行くとも。さあ、あったしましょう。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから2字下げ]
下手《しもて》の障子をあけて、あさ、睦子登場。睦子はすぐ数枝のほうに走って行き、数枝の膝《ひざ》の上に抱かれる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(数枝)(あさに向い、笑いながら)重かったでしょう?
(あさ)(買って来た魚のはいっている籠《かご》やら、角巻《かくまき》――津軽地方に於ける外出用の毛布――やらを上手《かみて》の台所のほうに運びながら)ああ、重かったとも何とも、石の
前へ 次へ
全49ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング