残金を調べやがったな。そうでなければ、半分以上残ってるなんて、確言できる筈はない。やった、やったんだ。よくあるやつさ。トイレットの中か、または横丁の電柱のかげで酔っていながら、残金を一枚二枚と数えて、溜息ついて、思い煩《わずら》うな空飛ぶ鳥を見よ、なんて力無く呟《つぶや》いてさ、いじらしいものだよ。実は、僕にも覚えがあらあ。
「今夜これから、残金全部使ってしまうつもりなんですがね、つき合ってくれませんか。どこか、あなたのなじみの飲み屋でもこの辺にあったら、案内して下さい。」
失敬、見直した。しかし、金は本当に持っているんだろうな。割勘《わりかん》などは、愉快でない。念のため、試問しよう。
「あるにはあるんですけど、そこは、ちょっと高いんですよ。案内して、あなたに後で、うらまれちゃあ、……」
「かまいません。三千円あったら、大丈夫でしょう。これは、あなたにお渡し致しますから、今夜、二人で使ってしまいましょう。」
「いや、それはいけません。よそのひとのお金をあずかると、どうも、責任を感じて僕はうまく酔えません。」
面《つら》のぶざいくなのに似合わず、なかなか話せる男じゃないか。やはり小
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