鉄面皮
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)伏目《ふしめ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)手前|味噌《みそ》を並べるのは、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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 安心し給《たま》え、君の事を書くのではない。このごろ、と言っても去年の秋から「右大臣実朝」という三百枚くらいの見当の小説に取りかかって、ことしの二月の末に、やっと百五十一枚というところに漕《こ》ぎつけて、疲れて、二、三日、自身に休暇を与えて、そうしてことしの正月に舟橋氏と約束した短篇小説の事などぼんやり考えていたのだけれども、私の生れつきの性質の中には愚直なものもあるらしく、胸の思いが、どうしても「右大臣実朝」から離れることが出来ず、きれいに気分を転換させて別の事を書くなんて鮮《あざ》やかな芸当はおぼつかなく、あれこれ考え迷った末に、やはりこのたびは「右大臣実朝」の事でも書くより他《ほか》に仕方がない、いや、実朝というその人に就《つ》いては、れいの三百枚くらいの見当で書くつもりなので、いまは、その三百枚くらいの見
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