二歳になられ、その時の別当|定暁僧都《じょうぎょうそうず》さまの御室に於いて落飾《らくしょく》なされて、その法名を公暁《くぎょう》と定められたのでございます。それは九月の十五日の事でございましたが御落飾がおすみになってから、尼御台さまに連れられて将軍家へ御挨拶に見えられ、私はその時はじめて此の禅師さまにお目にかかったというわけでございましたが、一口に申せば、たいへん愛嬌《あいきょう》のいいお方でございました。幼い頃から世の辛酸《しんさん》を嘗《な》めて来た人に特有の、磊落《らいらく》のように見えながらも、その笑顔には、どこか卑屈な気弱い影のある、あの、はにかむような笑顔でもって、お傍の私たちにまでいちいち叮嚀《ていねい》にお辞儀をお返しなさるのでした。無理に明るく無邪気に振舞おうと努めているようなところが、そのたった十二歳のお子の御態度の中にちらりと見えて、私は、おいたわしく思い、また暗い気持にもなりました。けれども流石《さすが》に源家の御直系たる優れたお血筋は争われず、おからだも大きくたくましく、お顔は、将軍家の重厚なお顔だちに較べると少し華奢《きゃしゃ》に過ぎてたよりない感じも致し
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