二十二だ。僕の死んだ弟と同じとしだ。あいつ、僕のわるいとこばかり眞似してゐやがる。飛騨はえらいのだ。もうひとりまへだよ。しつかりしてゐる。」しばらく間を置いて、小聲で附け加へた。「僕がこんなことをやらかすたんびに一生懸命で僕をいたはるのだ。僕たちにむりして調子を合せてゐるのだよ。ほかのことにはつよいが僕たちにだけおどおどするのだ。だめだ。」
 眞野は答へなかつた。
「あの女のことを話してあげようか。」
 やはり眞野へ脊をむけたまま、つとめてのろのろとさう言つた。なにか氣まづい思ひをしたときに、それを避ける法を知らず、がむしやらにその氣まづさを徹底させてしまはなければかなはぬ悲しい習性を葉藏は持つてゐた。
「くだらん話なんだよ。」眞野がなんとも言はぬさきから葉藏は語りはじめた。「もう誰かから聞いただらう。園といふのだ。銀座のバアにつとめてゐたのさ。ほんたうに、僕はそこのバアへ三度、いや四度しか行かなかつたよ。飛騨も小菅もこの女のことだけは知らなかつたのだからな。僕も教へなかつたし。」よさうか。「くだらない話だよ。女は生活の苦のために死んだのだ。死ぬる間際まで、僕たちは、お互ひにまつたくち
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