のときは、看護婦をよさうと思ひましたわ。私がひとり働かなくても、うちではけつこう暮してゆけるのですし。お父さんにさう言つて、うんと笑はれましたけれど。――小菅さん、どう?」
「すごいよ。」小菅は、わざとふざけたやうにして叫ぶのである。「その病院ていふのは?」
眞野はそれに答へず、ごそもそと寢返りをうつて、ひとりごとのやうに呟いた。
「私ね、大庭さんのときも、病院からの呼び出しを斷らうかと思ひましたのよ。こはかつたですからねえ。でも、來て見て安心しましたわ。このとほりのお元氣で、はじめから御不淨へ、ひとりで行くなんておつしやるんでございますもの。」
「いや、病院さ。ここの病院ぢやないかね。」
眞野は、すこし間を置いて答へた。
「ここです。ここなんでございますのよ。でも、それは祕密にして置いて下さいましね。信用にかかはりませうから。」
葉藏は寢とぼけたやうな聲を出した。「まさか、この部屋ぢやないだらうな。」
「いいえ。」
「まさか、」小菅も口眞似した。「僕たちがゆうべ寢たベツドぢやないだらうな。」
眞野は笑ひだした。
「いいえ。だいぢやうぶでございますわよ。そんなにお氣になさるんだ
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