は、まだ笑ひながら、首を傾けた。
「さうかなあ。」
「さうさ。死ぬてはないよ。」
「失敗かなあ。」
飛騨は、うれしくてうれしくて、胸がときめきした。いちばん困難な石垣を微笑のうちに崩したのだ。こんな不思議な成功も、小菅のふとどきな人徳のおかげであらうと、この年少の友をぎゆつと抱いてやりたい衝動を感じた。
飛騨は、うすい眉をはればれとひらき、吃りつつ言ひだした。
「失敗かどうかは、ひとくちに言へないと思ふよ。だいいち原因が判らん。」まづいなあ、と思つた。
すぐ小菅が助けて呉れた。「それは判つてる。飛騨と大議論をしたんだ。僕は思想の行きづまりからだと思ふよ。飛騨はこいつ、もつたいぶつてね、他にある、なんて言ふんだ。」間髮をいれず飛騨は應じた。「それもあるだらうが、それだけぢやないよ。つまり惚れてゐたのさ。いやな女と死ぬ筈がない。」
葉藏になにも臆測されたくない心から、言葉をえらばずにいそいで言つたのであるが、それはかへつておのれの耳にさへ無邪氣にひびいた。大出來だ、とひそかにほつとした。
葉藏は長い睫を伏せた。虚傲。懶惰。阿諛。狡猾。惡徳の巣。疲勞。忿怒。殺意。我利我利。脆弱。欺
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