》めあげたかった。身勝手な、いい気な考えであろうが、私はそれを、皆へのお詫びとして残したかった。私に出来る精一ぱいの事であった。そのとしの晩秋に、私は、どうやら書き上げた。二十数篇の中、十四篇だけを選び出し、あとの作品は、書き損じの原稿と共に焼き捨てた。行李一杯ぶんは充分にあった。庭に持ち出して、きれいに燃やした。
「ね、なぜ焼いたの」Hは、その夜、ふっと言い出した。
「要らなくなったから」私は微笑して答えた。
「なぜ焼いたの」同じ言葉を繰り返した。泣いていた。
私は身のまわりの整理をはじめた。人から借りていた書籍はそれぞれ返却し、手紙やノオトも、屑屋に売った。「晩年」の袋の中には、別に書状を二通こっそり入れて置いた。準備が出来た様子である。私は毎夜、安い酒を飲みに出かけた。Hと顔を合わせて居るのが、恐しかったのである。そのころ、或る学友から、同人雑誌を出さぬかという相談を受けた。私は、半ばは、いい加減であった。「青い花」という名前だったら、やってもいいと答えた。冗談から駒が出た。諸方から同志が名乗って出たのである。その中の二人と、私は急激に親しくなった。私は謂わば青春の最後の情熱を
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