ませ。本当に、このたびは、おどろきました。ちゃんと私の名前まで、お知りになっているのですもの。きっと、貴下は、あの私の手紙に興奮して大騒ぎしてお友達みんなに見せて、そうして手紙の消印などを手がかりに、新聞社のお友達あたりにたのんで、とうとう、私の名前を突きとめたというようなところだろうと思っていますが、違いますか? 男のかたは、女からの手紙だと直ぐ大騒ぎをするんだから、いやだわ。どうして私の名前や、それから二十三歳だという事まで知ったか、手紙でお知らせ下さい。末永く文通いたしましょう。この次からは、もっと優しい手紙を差し上げましょうね。御自重下さい。」
菊子さん、私はいま此の手紙を書き写しながら何度も何度も泣きべそをかきました。全身に油汗がにじみ出る感じ。お察し下さい。私、間違っていたのよ。私の事なんか書いたんじゃ無かったのよ。てんで問題にされていなかったのよ。ああ恥ずかしい、恥ずかしい。菊子さん、同情してね。おしまいまでお話するわ。
戸田さんが今月の『文学世界』に発表した『七草』という短篇小説、お読みになりましたか。二十三の娘が、あんまり恋を恐れ、恍惚《こうこつ》を憎んで、とうと
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