い言葉を、先生から書き送られて来るのではあるまいか。此の大きい封筒には、私の二通の手紙の他に、先生の優しい慰めの手紙もはいっているのではあるまいか。私は封筒を抱きしめて、それから祈って、それから開封したのですが、からっぽ。私の二通の手紙の他には、何もはいっていませんでした。もしや、私の手紙のレターペーパーの裏にでも、いたずら書きのようにして、何か感想でもお書きになっていないかしらと、いちまい、いちまい、私は私の手紙のレターペーパーの裏も表も、ていねいに調べてみましたが、何も書いていなかった。この恥ずかしさ。おわかりでしょうか。頭から灰でもかぶりたい。私は十年も、としをとりました。小説家なんて、つまらない。人の屑だわ。嘘《うそ》ばっかり書いている。ちっともロマンチックではないんだもの。普通の家庭に落ち附いて、そうして薄汚い身なりの、前歯の欠けた娘を、冷く軽蔑して見送りもせず、永遠に他人の顔をして澄ましていようというんだから、すさまじいや。あんなの、インチキというんじゃないかしら。
底本:「太宰治全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1988(昭和63)年12月1日第1刷発行
底本の親
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