つた。丈の高い蘭人は尚説明をし続けて行つた。「この北方の大きな国は夜国と申します。夜ばかり続くそうです。そのチヨツと下の大きな所はガルシヤと申します。ズーツとこつちに来ましてこの広い島はメリカンと申します……」謝源は可成失望をしてしまつた。目ぼしい大きい国は皆名さへ聞いたことのないものばかりであつたからだ。それでも彼は細いながらも望みをもつて居た。とうとう「ヨシヨシ。して、わしの領土は一体どこぢや」と聞いてしまつた。謝源はやがて蘭人が指さして呉れる大きな国を想像して居た。蘭人は少しためらつて居た。謝源はせきこんで「ウン一体どこぢや」と言つた。二人の蘭人は互に顔を見合せて何事かうなづき合つて居たが、やがて太つた方の蘭人がさも当惑したやうにして「サア、チヨツト見つかりませんやうです、この地図は大きい国ばかりを書いたものですから、あまり名の知れてない、こまかい国は記入してないかも知れません、現にこれには日本さへあるかなしのやうに、小さく書かれて居ますから……」とモヂモヂしながら言つた。
謝源は「何ツ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」とたつた一こと低いが併し鋭く叫んだ。それきり呼吸が止つてし
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