言ふまでもないことである。併し謝源は少しも残念がる様子もなく或夜コツソリと一そうの小舟で首里からのがれて行つた。どこに行つたか一人も知つて居るものがなかつた。
たゞ数ヶ月の後、石垣島の王のやしきの隅にその頃日本では、なかなか得ることの出来なかつた世界の地図が落ちてあるのを家来の一人が発見した。誰がどんな理由で持つて来てここのやしきの中に投げこんで行つたのか無論わからなかつた。そしてその地図の所々に薄い血痕のやうなものが付いて居た。石垣島の王はそれを、たいへん珍らしがつて保存して置いたことであらう。
底本:「日本の名随筆 別巻46 地図」堀淳一編、作品社
1994(平成6)年12月25日第1刷発行
底本の親本:「太宰治全集 第一二巻」筑摩書房
1977(昭和52)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:ブラン
校正:土屋隆
2003年12月14日作成
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