が私に眼をつけ、何かと要らない手伝いなどして、とうとう私はその木賃宿に連れて行かれ、それがまあ悪縁のはじまりでございまして、二つの屋台をくっつけて謂《い》わばまあ店舗《てんぽ》の拡張という事になり、私は大工さんの仕事やら、店の品の仕入れやら、毎日へとへとになるまで働き、婆と娘は客の相手で、いやな用事はみんな私に押しつけ、売上げの金は婆と娘が握ってはなさず、だんだん私を露骨に下男あつかいにして来まして、夜に木賃宿で私が娘に近づこうとすると、婆と娘は、しっ、しっ、とまるで猫でも追うようなイヤな叱り方をして私を遠ざけてしまいます。あとで少しずつ私にも気がついて来たのでございますが、この婆と娘は、ほんとうの親子で無いようなところもあり、何が何やら、二人とも夜鷹《よたか》くらいまで落ちた事があるような気配も見え、とにかくあまり心根が悪すぎてみんなに呆《あき》れられ捨てられ、もういまでは誰からも相手にされなくなっていたようなのでございました。私はこの四十ちかい大年増から、たちの悪い病気までうつされ、人知れぬ苦労をしたのでございますが、婆と娘はかえってそのとがを私に押しつけ、娘は何か面白くない事があ
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