は、サタンに追従《ついしょう》して共に堕落《おち》し霊物《もの》にして、人を怨《うら》み之を汚さんとする心つよく、其数多し」とある。甚《はなは》だ、いやらしいものである。わが名はレギオン、我ら多きが故なりなどと嘯《うそぶ》いて、キリストに叱られ、あわてて二千匹の豚の群に乗りうつり転げる如く遁走《とんそう》し、崖から落ちて海に溺れたのも、こいつらである。だらしの無い奴である。どうも似ている。似ているようだ。サタンにお追従を言うところなぞ、そっくりじゃないか。私の不安は極点にまで達した。私は自分の三十三年の生涯を、こまかに調べた。残念ながら、あるのだ。サタンにへつらっていた一時期が、あるのだ。それに思い当った時、私はいたたまらず、或る先輩のお宅へ駈けつけた。
「へんな事を言うようですけど、僕が五、六年前に、あなたへ借金申込みの手紙を差し上げた事があった筈ですが、あの手紙いまでもお持ちでしょうか。」
先輩は即座に答えた。
「持っている。」私の顔を、まっすぐに見て、笑った。「そろそろ、あんな手紙が気になって来たらしいね。僕は、君がお金持になったら、あの手紙を君のところへ持って行って恐喝《きょ
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