ち明けてあるのだけれど、兄さんも、やっぱりあなたと同じようなことを言って、絶対反対なの、もっと地《じ》みちな、あたりまえの結婚をしろって言うのよ、もっとも兄さんは徹底した現実家だから、そう言うのも無理はないけれど、でも、あたし兄さんの反対なんか気にしていないの、来年の春、あの人が学校を卒業したら、あたしたちだけでちゃんときめてしまうの、と可愛く両肩を張って意気込んでいました。私は無理に微笑み、ただ首肯《うなず》いて聞いていました。あの人の無邪気さが、とても美しく、うらやましく思われ、私の古くさい俗な気質が、たまらなく醜いものに思われました。そんな打ち明け話があってから、芹川さんと私との間は、以前ほど、しっくり行かなくなって、女の子って変なものですね、誰か間に男の人がひとりはいると、それまでどんなに親しくつき合っていたっても、颯《さ》っと態度が鹿爪らしくなって、まるで、よそよそしくなってしまうものです。まさか私たちの間は、そんなにひどく変ったわけではございませんけれど、でも、お互に遠慮が出て、御挨拶まで叮嚀になり、口数も少なくなりましたし、よろずに大人びてまいりました。どちらからも、あの
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