転び八起きだね。いろんな事がある。」と言つて私は、自分の身の上とも思ひ合せ、ふつと涙ぐましくなつた。この善良な友人が、馴れぬ手つきで、工場の隅で、ひとり、ばつたんばつたん筵を織つてゐる侘しい姿が、ありありと眼前に見えるやうな気がして来た。私は、この友人を愛してゐる。
その夜はまた、お互ひ一仕事すんだのだから、などと言ひわけして二人でビールを飲み、郷土の凶作の事に就いて話し合つた。N君は青森県郷土史研究会の会員だつたので、郷土史の文献をかなり持つてゐた。
「何せ、こんなだからなあ。」と言つてN君は或る本をひらいて私に見せたが、そのペエジには次のやうな、津軽凶作の年表とでもいふべき不吉な一覧表が載つてゐた。
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元和一年 大凶
元和二年 大凶
寛永十七年 大凶
寛永十八年 大凶
寛永十九年 凶
明暦二年 凶
寛文六年 凶
寛文十一年 凶
延宝二年 凶
延宝三年 凶
延宝七年 凶
天和一年 大凶
貞享一年 凶
元禄五年 大凶
元禄七年 大凶
元禄八年 大凶
元禄九年
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