家のお座敷に、それぞれの家族が重箱をひろげ、大人は酒を飲み、子供と女は、ごはん食べながら、大陽気で語り笑つてゐるのである。日本は、ありがたい国だと、つくづく思つた。たしかに、日出づる国だと思つた。国運を賭しての大戦争のさいちゆうでも、本州の北端の寒村で、このやうに明るい不思議な大宴会が催されて居る。古代の神々の豪放な笑ひと闊達な舞踏をこの本州の僻陬に於いて直接に見聞する思ひであつた。海を越え山を越え、母を捜して三千里歩いて、行き着いた国の果の砂丘の上に、華麗なお神楽が催されてゐたといふやうなお伽噺の主人公に私はなつたやうな気がした。さて、私は、この陽気なお神楽の群集の中から、私の育ての親を捜し出さなければならぬ。わかれてから、もはや三十年近くなるのである。眼の大きい頬ぺたの赤いひとであつた。右か、左の眼蓋の上に、小さい赤いほくろがあつた。私はそれだけしか覚えてゐないのである。逢へば、わかる。その自信はあつたが、この群集の中から捜し出す事は、むづかしいなあ、と私は運動場を見廻してべそをかいた。どうにも、手の下しやうが無いのである。私はただ、運動場のまはりを、うろうろ歩くばかりである。

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