もらひました。鳶の者だか、ばくち打ちだか、お店《たな》ものだか、わけのわからぬ服装になつてしまひました。統一が無いのです。とにかく、芝居に出て来る人物の印象を与へるやうな服装だつたら、少年はそれで満足なのでした。初夏のころで、少年は素足に麻裏草履をはきました。そこまではよかつたのですが、ふと少年は妙なことを考へました。それは股引に就いてでありました。紺の木綿のピッチリした長股引を、芝居の鳶の者が、はいてゐるやうですけれど、あれを欲しいと思ひました。ひよつとこめ、と言つて、ぱつと裾をさばいて、くるりと尻をまくる。あのときに紺の股引が眼にしみるほど引き立ちます。さるまた一つでは、いけません。少年は、その股引を買ひ求めようと、城下まちを端から端まで走り廻りました。どこも無いのです。あのね、ほら、あの左官屋さんなんか、はいてゐるぢやないか、ぴちつとした紺の股引さ、あんなの無いかしら、ね、と懸命に説明して、呉服屋さん、足袋屋さんに聞いて歩いたのですが、さあ、あれは、いま、と店の人たち笑ひながら首を振るのでした。もう、だいぶ暑いころで、少年は、汗だくで捜し廻り、たうとう或る店の主人から、それは、う
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