油で煮て片端から食べて、二十匹三十匹を平気でたひらげる人は決して珍らしくない。ハタハタの会などがあつて、一ばん多く食べた人には賞品、などといふ話もしばしば聞いた。東京へ来るハタハタは古くなつてゐるし、それに料理法も知らないだらうから、ことさらまづいものに感ぜられるのであらう。俳句の歳時記などにも、ハタハタが出てゐるやうだし、また、ハタハタの味は淡いといふ意味の江戸時代の俳人の句を一つ読んだ記憶もあるし、あるいは江戸の通人には、珍味とされてゐたものかも知れない。いづれにもせよ、このハタハタを食べる事は、津軽の冬の炉辺のたのしみの一つであるといふ事には間違ひない。私は、そのハタハタに依つて、幼年時代から鰺ヶ沢の名を知つてはゐたのだが、その町を見るのは、いまがはじめてであつた。山を背負ひ、片方はすぐ海の、おそろしくひよろ長い町である。市中はものの匂ひや、とかいふ凡兆の句を思ひ出させるやうな、妙によどんだ甘酸つぱい匂ひのする町である。川の水も、どろりと濁つてゐる。どこか、疲れてゐる。木造町のやうに、ここにも長い「コモヒ」があるけれども、少し崩れかかつてゐる、リ造町のコモヒのやうな涼しさが無い。
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