いでゐた。ここから見た津軽富士も、金木から見た姿と少しも違はず、華奢で頗る美人である。このやうに山容が美しく見えるところからは、お米と美人が産出するといふ伝説があるとか。この地方は、お米はたしかに豊富らしいが、もう一方の、美人の件は、どうであらう。これも、金木地方と同様にちよつと心細いのではあるまいか。その件に関してだけは、あの伝説は、むしろ逆ぢやないかとさへ私には疑はれた。岩木山の美しく見える土地には、いや、もう言ふまい。こんな話は、えてして差しさはりの多いものだから、ただ町を一巡しただけの、ひやかしの旅人のにはかに断定を下すべき筋合のものではないかも知れない。その日も、ひどくいい天気で、停車場からただまつすぐの一本街のコンクリート路の上には薄い春霞のやうなものが、もやもや煙つてゐて、ゴム底の靴で猫のやうに足音も無くのこのこ歩いてゐるうちに春の温気《うんき》にあてられ、何だか頭がぼんやりして来て、木造警察署の看板を、木造《もくざう》警察署と読んで、なるほど木造《もくざう》の建築物、と首肯き、はつと気附いて苦笑したりなどした。
木造《きづくり》は、また、コモヒの町である。コモヒといふ
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