うつとりしてしまつた。岩木川が細い銀線みたいに、キラキラ光つて見える。その銀線の尽きるあたりに、古代の鏡のやうに鈍く光つてゐるのは、田光《たつぴ》沼であらうか。さらにその遠方に模糊と煙るが如く白くひろがつてゐるのは、十三湖らしい。十三湖あるいは十三|潟《がた》と呼ばれて、「津軽大小の河水凡そ十有三の派流、この地に落合ひて大湖となる。しかも各河川固有の色を失はず。」と「十三往来」に記され、津軽平野北端の湖で、岩木川をはじめ津軽平野を流れる大小十三の河川がここに集り、周囲は約八里、しかし、河川の運び来る土砂の為に、湖底は浅く、最も深いところでも三メートルくらゐのものだといふ。水は、海水の流入によつて鹹水であるが、岩木川からそそぎ這入る河水も少くないので、その河口のあたりは淡水で、魚類も淡水魚と鹹水魚と両方宿り住んでゐるといふ。湖が日本海に開いてゐる南口に、十三といふ小さい部落がある。この辺は、いまから七、八百年も前からひらけて、津軽の豪族、安東氏の本拠であつたといふ説もあり、また江戸時代には、その北方の小泊港と共に、津軽の木材、米穀を積出し、殷盛を極めたとかいふ話であるが、いまはその一片の
前へ 次へ
全228ページ中165ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング