人は皆夏ばかりなれば、草木も青み渡り、風も南風に変り、海づらものどかなれば、恐ろしき名にも立ざる事と覚ゆ。我北地に到りしは、九月より三月の頃なれば、途中にて旅人には絶えて逢ふ事なかりし。我旅行は医術修行の為なれば、格別の事なり。只名所をのみ探らんとの心にて行く人は必ず四月以後に行くべき国なり。」としてあるが、旅行の達人の言として、読者もこれだけは信じて、覚えて置くがよい。津軽では、梅、桃、桜、林檎、梨、すもも、一度にこの頃、花が咲くのである。自信ありげに、私が先に立つて町はづれまで歩いて来たが、高流へ行く路がわからない。小学校の頃に二、三度行つた事があるきりなのだから、忘れるのも無理はないとも思つたが、しかし、その辺の様子が、幼い頃の記憶とまるで違つてゐる。私は当惑して、
「停車場や何か出来て、この辺は、すつかり変つて、高流には、どう行けばいいのか、わからなくなりました。あの山なんですがね。」と私は、前方に見える、への字形に盛りあがつた薄みどり色の丘陵を指差して言つた。「この辺で、少しぶらぶらして、アヤたちを待つ事にしませう。」とお婿さんに笑ひながら提案した。
「さうしませう。」とお婿
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