顔はいいものだ。「こんどは、かへされたくないと思つてゐるんですが。」自然な口調で、軽く言つた。
「この地方に、これは偉い、としんから敬服出来るやうな、隠れた大人物がゐないものでせうか。」
「さあ、僕なんかには、よくわかりませんけど、篤農家などと言はれてゐる人の中に、ひよつとしたら、あるんぢやないでせうか。」
「さうでせうね。」私は大いに同感だつた。「僕なんかも、理窟は下手だし、まあ篤文家とでもいつたやうな痴《こけ》の一念で生きて行きたいと思つてゐるのですが、どうも、つまらぬ虚栄などもあつて、常識的な、きざつたらしい事になつてしまつて、ものになりません。しかし、篤農家も、篤農家としてあまり大きいレツテルをはられると、だめになりはしませんか。」
「さう。さうです。新聞社などが無責任に矢鱈に騒ぎ立て、ひつぱり出して講演をさせたり何かするので、せつかくの篤農家も妙な男になつてしまふのです。有名になつてしまふと、駄目になります。」
「まつたくですね。」私はそれにも同感だつた。「男つて、あはれなものですからね。名声には、もろいものです。ジヤアナリズムなんて、もとをただせば、アメリカあたりの資本家の
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