ぶが如く、実にまづい事になつてしまつた。私は、奥のお婆さんに聞えなければいいが、とはらはらしてゐたのだが、果せる哉、襖がすつとあいて、お婆さんが出て来て、
「さ、歌コも出たやうだし、そろそろ、お休みになりせえ。」と言つて、お膳をさげ、さつさと蒲団をひいてしまつた。さすがに、N君の気宇広大の蛮声には、度胆を抜かれたものらしい。私はまだまだ、これから、大いに飲まうと思つてゐたのに、実に、馬鹿らしい事になつてしまつた。
「まづかつた。歌は、まづかつた。一つか二つでよせばよかつたのだ。あれぢやあ、誰だつておどろくよ。」と私は、ぶつぶつ不平を言ひながら、泣寝入りの形であつた。
翌る朝、私は寝床の中で、童女のいい歌声を聞いた。翌る日は風もをさまり、部屋には朝日がさし込んでゐて、童女が表の路で手毬歌を歌つてゐるのである。私は、頭をもたげて、耳をすました。
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せツせツせ
夏もちかづく
八十八夜
野にも山にも
新緑の
風に藤波
さわぐ時
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私は、たまらない気持になつた。いまでも中央の人たちに蝦夷の土地と思ひ込まれて軽蔑されてゐる本州の北端で、このやうな美
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