畜犬談
―伊馬鵜平君に与える―
太宰治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)喰《く》いつかれる
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十匹|這《は》っている
−−
私は、犬については自信がある。いつの日か、かならず喰《く》いつかれるであろうという自信である。私は、きっと噛《か》まれるにちがいない。自信があるのである。よくぞ、きょうまで喰いつかれもせず無事に過してきたものだと不思議な気さえしているのである。諸君、犬は猛獣である。馬を斃《たお》し、たまさかには獅子《しし》と戦ってさえこれを征服するとかいうではないか。さもありなんと私はひとり淋しく首肯《しゅこう》しているのだ。あの犬の、鋭い牙《きば》を見るがよい。ただものではない。いまは、あのように街路で無心のふうを装い、とるに足らぬもののごとくみずから卑下して、芥箱《ごみばこ》を覗《のぞ》きまわったりなどしてみせているが、もともと馬を斃すほどの猛獣である。いつなんどき、怒り狂い、その本性を暴露するか、わかったものではない。犬はかならず鎖に固くしばりつけておくべきである。少しの油断もあってはなら
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