ある。
「この辺は、みんな、あなたの畑なんでしょうか。」かえって私のほうが、腫物《はれもの》にでも触るような、冷や冷やした気持で聞いてみた。
「そうです。そうです。」すこし尖った口調で答えて、二度も三度も首肯した。
「家が建つのだそうですね。いつごろ建つの?」
「もう、間も無く建ちますよ。立派な、お屋敷が建つらしいですよ。ははは。」男みたいに不敵に笑った。
「あなたがたのお家じゃないんですね。それじゃ、畑をお売りになっちゃったというわけですね。」
「ええ、そういうわけです。売っちまったというわけですよ。」
「この辺は、坪いくらしましょう。相当いい値でしょうね。」
「なあに、坪、二三十円も、しますかね。へっへ。」低く笑って、けれどもその顔を見ると、汗が額に、にじみ出ている。懸命なのである。
 私は、負けた。この上いじめるのは、よそうと思った。私だって、嘗《か》つては、このように、見え透いた嘘を、見破られているのを知っていながらも一生懸命に言い張ったことがあったのだ。その時も、やはり、あの不思議な涙で、瞼がひどく熱かったことを覚えている。
「植えていって下さい。おいくらですか?」早くこの者
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