わかっていながら、それでも、強く私は胸を突かれた。も少し、親しくして置けばよかったと思った。
これだけのことでも、やはり、「のろけ」という事になるのであろうか。こんなことが、私のとって置きの「のろけ」だとしたなら、私は、ずいぶんみじめな、あわれな、野郎にちがいない。みじんも「のろけ」のつもりでは無いのだ。支那そばやの女中さんから、鶏卵一個を恵まれたからとて、それが、なんの手柄になることか。私は、自身の恥辱を告白しているだけである。私は自身の容貌の可笑《おか》しさも知っている。小さい時から、醜い醜いと言われて育った。不親切で、気がきかない。それに、下品にがぶがぶ大酒を呑む。女に、好かれる筈は無いのである。私には、それをまた、少し自慢にしているようなところも在るのである。私は、女には好かれたくは無いと思っている。あながち、やけくそからでも無いのである。ぶんを知っているのである。好かれるほどの価値が無いと自覚している人が、何かの拍子で好かれたなら、ただ、狼狽《ろうばい》、自身みじめな思いをするだけのことでは無いかと思われる。私が、こんなことを言っても、ほんとうにしない人があるかも知れないけ
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