ゃ》たちに何かを投げつけるような、おおらかな身振りをしていて、若い小さい処女のままの清楚《せいそ》の母は、その美しく勇敢な全裸の御子《みこ》に初い初いしく寄り添い、御子への心からの信頼に、うつむいて、ひっそりしずまり、幽《かす》かにもの思いつつ在る様が、私の貧しい食事を、とうとう中絶させてしまった。よく見ると、そのようにおおらかな、まるで桃太郎のように玲瓏《れいろう》なキリストのからだの、その腹部に、その振り挙げた手の甲に、足に、まっくろい大きい傷口が、ありありと、むざんに描かれて在る。わかる人だけには、わかるであろう。私は、堪えがたい思いであった。また、この母は、なんと佳いのだ。私は、幼時、金太郎よりも、金太郎とふたりで山にかくれて住んでいる若く美しい、あの山姥《やまんば》のほうに、心をひかれた。また、馬に乗ったジャンダアクを忘れかねた。青春のころのナイチンゲールの写真にも、こがれた。けれども、いま、眼のまえに在るこの若い、処女のままの母を見ると、てんで比較にも何も、なりやしない。この母は、怜悧《れいり》の小さい下婢《かひ》にも似ている。清潔で、少し冷たい看護婦にも似ている。けれども
前へ
次へ
全18ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング