うものは、いったん思い込んだ男を忘れかねると見えるな。うわっはっは。いまでも手紙を寄こすのだよ。うふふ。こないだも、餅を送ってよこした。女は、馬鹿なものだよ、まったく。女に惚《ほ》れられようとしたら、顔でも駄目だ、金でも駄目だ、気持だよ、心だよ。じっさい俺も東京時代は、あばれたものだ。考えてみると、あの頃は無論お前も東京にいて、芸者を泣かせたりなんかして遊んでいた筈だが、いちども俺と逢わなかったのは不思議だな。お前は、いったいあの頃は、おもにどの方面で遊んでいたのだ」
あの頃とは、私には、どの頃かわからない。それに私は東京に於いて、彼の推量の如くそんな、芸者を泣かせたりして遊んだ覚えは一度だって無い。おもに屋台のヤキトリ屋で、泡盛や焼酎を飲み、管《くだ》を巻いていたのである。私は東京に於いて、彼の所謂「女で大しくじり」をして、それも一度や二度でない、たび重なる大しくじりばかりして、親兄弟の肩身をせまくさせたけれども、しかし、せめて、これだけは言えると思う、「ただ金のあるにまかせて、色男ぶって、芸者を泣かせて、やにさがっていたのではない!」みじめなプロテストではあるが、これをさえ私は未
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