私は感じた。
数日後、ウィスキイは私の部屋の押入れに運び込まれ、私は女房に向って、
「このウィスキイにはね、二十六歳の処女のいのちが溶け込んでいるんだよ。これを飲むと、僕の小説にもめっきり艶《つや》っぽさが出て来るという事になるかも知れない。」
と言い、そもそも郵便局で無筆のあわれな爺さんに逢った事のはじめから、こまかに語り起すと、女房は半分も聞かぬうちに、
「ウソ、ウソ。お父さんは、また、てれ隠しの作り話をおっしゃってる。ねえ、坊や。」
と言って、這《は》い寄る二歳の子を膝《ひざ》へ抱き上げた。
底本:「太宰治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年4月25日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
入力:柴田卓治
校正:ゆうこ
2000年3月21日公開
2005年11月1日修正
青空文庫作成ファイル:
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