たエゴイストじゃないか。」などと言われる事の恥ずかしさに、私は、どんなに切迫した自分の仕事があっても、立って学生たちを迎えるような傾向が無いわけでもなかったらしい。そんなに誠意のあるウエルカムではなかったようだ。卑劣な自己防衛である。なんの責任感も無かった。学生たちを怒らせなければ、それでよかった。私は学生たちの話を聞きながら、他の事ばかり考えていた。あたりさわりの無い短い返辞をして、あいまいに笑っていた。私の立場ばかりを計算していたのである。学生たちは私を、はにかみの深い、おひとよしだと思っていたかも知れない。けれども、このごろは、めっきり私も優しくなって、思う事をそのままきびしく言うようになってしまった。普通の優しさとは少し違うのである。私の優しさは、私の全貌《ぜんぼう》を加減せずに学生たちに見せてやる事なのだ。私は、いまは責任を感じている。私のところへ来る人を、ひとりでも堕落させてはならぬと念じている。私が最後の審判の台に立たされた時、たった一つ、「けれども私は、私と附き合った人をひとりも堕落させませんでした。」と言い切る事が出来たら、どんなに嬉しいだろう。私はこのごろ学生たちに
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