。この子供は、かならず、丈夫に育つ。私は、それを信じている。なぜだか、そんな気がして、私には心残りが無い。外へ出ても、なるべく早く帰って、晩ごはんは家でたべる事にしている。食卓の上には、何も無い。私には、それが楽しみだ。何も無いのが、楽しみなのだ。しみじみするのだ。家の者は、面目ないような顔をしている。すみません、とおわびを言う。けれども私は、矢鱈《やたら》におかずを褒めるのだ。おいしい、と言うのだ。家の者は、淋しそうに笑っている。
「つくだ煮。わるくないね。海老《えび》のつくだ煮じゃないか。よく手にはいったね。」
「しなびてしまって。」家の者には自信が無い。
「しなびてしまっても海老は海老だ。僕の大好物なんだ。海老の髭《ひげ》には、カルシウムが含まれているんだ。」出鱈目である。
食卓には、つくだ煮と、白菜のおしんこと、烏賊《いか》の煮附《につ》けと、それだけである。私はただ矢鱈に褒めるのだ。
「おしんこ、おいしいねえ。ちょうど食べ頃だ。僕は小さい時から、白菜のおしんこが一ばん好きだった。白菜のおしんこさえあれば、他におかずは欲しくなかった。サクサクして、この歯ざわりが、こたえられね
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