にせっせと主人の金を持ち運び、長松は朝から晩まで台所をうろつき、戸棚《とだな》に首を突込んでつまみ食い、九助は納屋《なや》にとじこもって濁酒を飲んで眼をどろんとさせて何やらお念仏に似た唄を口ずさみ、お竹は、鏡に向って両肌《もろはだ》を脱ぎ角力取《すもうと》りが狐拳《きつねけん》でもしているような恰好《かっこう》でやっさもっさおしろいをぬたくって、化物のようになり、われとわが顔にあいそをつかしてめそめそ泣き出し、お針のお六は、奥方の古着を自分の行李《こうり》につめ込んで、ぎょろりとあたりを見廻し、きせるを取り出して煙草《たばこ》を吸い、立膝《たてひざ》になってぶっと鼻から強く二本の煙を噴出させ、懐手《ふところで》して裏口から出て、それっきり夜おそくまで帰らず、猫《ねこ》は鼠《ねずみ》を取る事をたいぎがって、寝たまま炉傍《ろばた》に糞をたれ、家は蜘蛛《くも》の巣だらけ庭は草|蓬々《ぼうぼう》、以前の秩序は見る影も無くこわされて、旦那《だんな》はまた、上方に於いて、はじめは田舎者らしくおっかなびっくり茶屋にあがって、けちくさい遊びをたのしんでいたが、お世辞を言うために生れて来た茶屋の者たちに
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