がするほど永く湯槽《ゆぶね》にひたって、よろめいて出て、世の中にお湯銭くらい安いものはない、今夜あそびに出掛けたら、どうしたって一両失う、お湯に酔うのも茶屋酒に酔うのも結局は同じ事さ、とわけのわからぬ負け惜しみの屁理窟《へりくつ》をつけて痩我慢《やせがまん》の胸をさすり、家へ帰って一合の晩酌《ばんしゃく》を女房の顔を見ないようにしてうつむいて飲み、どうにも面白《おもしろ》くないので、やけくそに大めしをくらって、ごろりと寝ころび、出入りの植木屋の太吉爺《たきちじい》を呼んで、美作の国の七不思議を語らせ、それはもう五十ぺんも聞いているので、腕まくらしてきょろきょろと天井板を眺めて別の事を考え、不意に思いついたように小間使いを呼んで足をもませ、女房の顔を見ると、むらむらっとして来て、おい、茶を持って来い、とつっけんどんに言いつけ、女房に茶碗《ちゃわん》をささげ持たせたまま、自分はやはり寝ながら頭を少しもたげ、手も出さずにごくごく飲んで、熱い、とこごとを言い、八つ当りしても、大将が夜遊びさえしなければ家の中は丸くおさまり、隠居はくすくす笑いながら宵《よい》から楽寝、召使いの者たちも、将軍内にい
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