ふっと浮気《うわき》をするかも知れない、いや、人間その方面の事はわからぬものです、その時、女房《にょうぼう》が亭主《ていしゅ》に気弱く負けていたら、この道楽はやめがたい、私はそんな時の用心に、気違いみたいなやきもち焼きの女房をもらって置きたい、亭主が浮気をしたら出刃庖丁《でばぼうちょう》でも振りまわすくらいの悋気《りんき》の強い女房ならば、私の生涯《しょうがい》も安全、この万屋の財産も万歳だろうと思います、という事だったので、あるじは膝《ひざ》を打ち眼《め》を細くして喜び、早速四方に手をまわして、その父親が九十の祖母とすこし長話をしても、いやらし、やめよ、と顔色を変え眼を吊《つ》り上げ立ちはだかってわめき散らすという願ったり叶《かな》ったりの十六のへんな娘を見つけて、これを養子の嫁に迎え、自分ら夫婦は隠居して、家の金銀のこらず養子に心置きなくゆずり渡した。この養子、世に珍らしく仕末の生れつきながら、量り知られぬおびただしき金銀をにわかにわがものにして、さすがに上気し、四十はおろか三十にもならぬうちに、つき合いと称して少し茶屋酒をたしなみ、がらにもなく髪を撫《な》でつけ、足袋、草履など吟
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