《せんとう》に女ふたり長刀《なぎなた》を持ち、百右衛門の屋敷に駈け込み、奥の座敷でお妾《めかけ》を相手に酒を飲んでいる百右衛門の痩せた右腕を武蔵まず切り落し、百右衛門すこしもひるまず左手で抜き合わすを鞠は踏み込んで両足を払えば百右衛門|立膝《たてひざ》になってもさらに弱るところなく、八重をめがけて烈《はげ》しく切りつけ、武蔵ひやりとして左の肩に切り込めば、百右衛門たまらず仰向けに倒れたが、一向に死なず、蛇《へび》の如《ごと》く身をくねらせて手裏剣《しゅりけん》を鋭く八重に投げつけ、八重はひょいと身をかがめて危《あやう》く避けたが、そのあまりの執念深さに、思わず武蔵と顔を見合せたほどであった。
めでたく首級を挙げて、八重、鞠の両人は父の眠っている鮭川の磯に急ぎ、武蔵はおのれの屋敷に引き上げて、このたびの刃傷の始中終《しちゅうじゅう》を事こまかに書き認《したた》め、殿の御許しも無く百右衛門を誅《ちゅう》した大罪を詫《わ》び、この責すべてわれに在りと書き結び、あしたすぐ殿へこの書状を差上げよと家来に言いつけ、何のためらうところも無く見事に割腹して相果てたとはなかなか小気味よき武士である。女
前へ
次へ
全209ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング