は必ず酒屋へ立寄るもので、謂《い》わば坊主《ぼうず》とお医者の如《ごと》くこの二つが親戚《しんせき》だったら、鬼に金棒で、町内の者が皆殺されてしまいます、などとけしからぬ事まで口走り、一世一代の無い智慧《ちえ》を絞って懸命に取りなせば、徳右衛門も少し心が動き、
「桑盛様の御総領ならば、私のほうでも不足はございませんが、時に、桑盛さまの御宗旨《ごしゅうし》は?」
「ええと、それは、」意外の質問なので、伝六はぐっとつまり、「はっきりは、わかりませぬが、たしか浄土宗で。」
「それならば、お断り申します。」と口を曲げて憎々しげに言い渡した。「私の家では代々の法華宗《ほっけしゅう》で、殊《こと》にも私の代になりましてから、深く日蓮《にちれん》様に帰依《きえ》仕《つかまつ》って、朝夕|南無妙法蓮華経《なむみょうほうれんげきょう》のお題目を怠らず、娘にもそのように仕込んでありますので、いまさら他宗へ嫁にやるわけには行きません。あなたも縁談の橋渡しをしようというほどの男なら、それくらいの事を調べてからおいでになったらどうです。」
「いや、あの、私は、」と冷汗を流し、「私は代々の法華宗の日蓮様で、朝夕、
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