うへは足を向けて寝られぬ、などと言うものだから、鰐口は町内の者に合わす顔が無く、いたたまらず、ついに出家しなければならなくなった。そのような騒ぎをいつまでも捨て置く事も出来ず、丸亀屋の身内の者全部ひそかに打寄って相談して、これはとにかく嫁をもらってやるに限る、横町の小平太の詰将棋も坂下の与茂七の尺八も嫁をもらったらぱったりやんだ、才兵衛さんも綺麗なお嫁さんから人間の情愛というものを教えられたら、あんな乱暴なむごい勝負がいやになるに違いない、これは何でも嫁をもらってやる事です、と鳩首《きゅうしゅ》して眼を光らせてうなずき合い、四方に手廻《てまわ》しして同じ讃岐の国の大地主の長女、ことし十六のお人形のように美しい花嫁をもらってやったが、才兵衛は祝言《しゅうげん》の日にも角力の乱れ髪のままで、きょうは何かあるのですか、大勢あつまっていやがる、と本当に知らないのかどうか、法事ですか、など情無い事を言い、父母をはじめ親戚《しんせき》一同、拝むようにして紋服を着せ、花嫁の傍《そば》に坐らせてとにかく盃事《さかずきごと》をすませて、ほっとした途端に、才兵衛はぷいと立ち上って紋服を脱ぎ捨て、こんなつま
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