、御物《おもの》縫いの女、それから下働きのおさんどん二人、お小姓二人、小坊主《こぼうず》一人、あんま取の座頭一人、御酒の相手に歌うたいの伝右衛門《でんえもん》、御料理番一人、駕籠《かご》かき二人、御草履《おぞうり》取大小二人、手代一人、まあざっと、これくらいつけてあげるつもりですから、悪い事は言わない、まあ花見がてらに、――」と懸命に説けば、
「上方へは、いちど行ってみたいと思っていました。」と気軽に言うので、母はよろこび膝をすすめ、
「お前さえその気になってくれたら、あとはもう、立派なお屋敷をつくって、お妾でも腰元でも、あんま取の座頭でも、――」
「そんなのはつまらない。上方には黒獅子《くろじし》という強い大関がいるそうです。なんとかしてその黒獅子を土俵の砂に埋めて、――」
「ま、なんて情無い事を考えているのです。好きな女と立派なお屋敷に暮して、酒席のなぐさみには伝右衛門を、――」
「その屋敷には、土俵がありますか。」
母は泣き出した。
襖越《ふすまご》しに番頭、手代《てだい》たちが盗み聞きして、互いに顔を見合せて溜息《ためいき》をつき、
「おれならば、お内儀さまのおっしゃるとお
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