、いやだ。また一つ、としをとるのよ。ことしのお正月に、十九の春なんて、お客さんにからかわれ、羽根を突いてもたのしく、何かいい事もあるかと思って、うかうか暮しているうちに、あなた、一夜明けると、もう二十《はたち》じゃないの。はたちなんて、いやねえ。たのしいのは、十代かぎり。こんな派手な振袖《ふりそで》も、もう来年からは、おかしいわね。ああ、いやだ。」と帯をたたいて、悶《もだ》えて見せた。
「思い出した。その帯をたたく手つきで思い出した。」男は記憶力の馬鹿強いところを発揮した。「ちょうどいまから二十年前、お前さんは花屋の宴会でわしの前に坐り、いまと同じ事を言い、そんな手つきで帯をたたいたが、あの時にもたしか十九と言った。それから二十年|経《た》っているから、お前さんは、ことし三十九だ。十代もくそもない、来年は四十代だ。四十まで振袖を着ていたら、もう振袖に名残《なごり》も無かろう。からだが小さいから若く見えるが、いまだに十九とは、ひどいじゃないか。」と粋人も、思わず野暮の高声になって攻めつけると、女は何も言わずに、伏目になって合掌した。
「わしは仏さんではないよ。縁起でもない。拝むなよ。興覚
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