金は、わしたちのもの、家へ帰ってから戸棚《とだな》の引出しをあけて見ろ、と不思議な事を言った。言った者には、覚えのある筈《はず》。いや、それがしは神通力も何も持っていない。あの赤い太鼓は重かったであろう。あの中に小坊主《こぼうず》ひとりいれて置いた。委細はその小坊主から聞いて知った。言った者を、いまここで名指しをするのは容易だが、この者とて、はじめは真の情愛を以《もっ》てこのたびの美挙に参加したのに違いなく、酒の酔いに心が乱れ、ふっと手をのばしただけの事と思われる。命はたすける。おかみの慈悲に感じ、今夜、人目を避けて徳兵衛の家の前にかの百両の金子を捨てよ。然《しか》る後は、当人の心次第、恥を知る者ならば都から去れ。おかみに於《お》いては、とやかくの指図無し。一同、立て。以上。」
[#地から2字上げ](本朝桜陰比事、巻一の四、太鼓の中は知らぬが因果)
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粋人
「ものには堪忍《かんにん》という事がある。この心掛けを忘れてはいけない。ちっとは、つらいだろうが我慢をするさ。夜の次には、朝が来るんだ。冬の次には春が来るさ。きまり切っているんだ。世の中は、陰陽、陰陽、陰陽と
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