》をかけた。
「それは、むずかしいでしょうね。」勝太郎には、丹三郎の底意がわからぬ。無邪気に答える。「馬の上なら、眠りながら歩くという事も出来ますけれど。」
「うん、あれは。」あれは、あぶない。蛸には、馬上で眠るなんて芸当は出来ない。眠ったら最後、落馬だ。「あれは、また、野暮なものだ。眼が覚めて、ここはどこか、と聞いても、馬は答えてくれないからね。」駕籠だと、駕籠かきが、へえ、もうそろそろ桑名です、と答えてくれる。ああ、駕籠に乗りたい。
「うまい事をおっしゃる。」勝太郎には、蛸の謎が通じない。ただ無心に笑っている。
丹三郎はいまいましげに勝太郎を横目で睨《にら》んで、
「お前もまた、野暮な男だ。思いやりというものがない。」とあらたまった口調で言った。
「はあ?」と勝太郎はきょとんとしている。
「見ればわかるじゃないか。おれはもう、歩けなくなっているのだ。おれはこんなに太っているから股《また》ずれが出来て、人に知られぬ苦労をして歩いているのだ。見れば、わかりそうなものだ。」と言って急に顔を苦しげにしかめ片足をひきずって歩きはじめた。
「肩を貸してやれ。」とお駕籠の後に扈従《こじゅう》し
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