ければいけないでしょうか。」
ハム。「よせよ。自分から言い出して置きながら、いまになって、そんな卑怯《ひきょう》な逃げかたをするなんて。ウイッタンバーグじゃ、そんな呻《うめ》くような、きざな台詞《せりふ》が流行《はや》っているのかね?」
ホレ。「そんなら申し上げます。そんなにホレーショーの誠実を侮辱なさるんだったら申し上げます。本当に、平気でお聞き流し願います。つまらない、とるにも足らぬ噂です。臣ホレーショーは、もとより、そんな不埒《ふらち》な噂は信じていません。」
ハム。「どうだっていいよ、そんな事は。僕は不機嫌《ふきげん》になった。君もそんな固くるしい言いかたをするという事を、はじめて知ったよ。」
ホレ。「申し上げます。その噂は、このごろエルシノア王城に幽霊が出るという、――」
ハム。「それあまた、ひどい。ホレーショー、本気かね。僕は、笑っちゃったよ。ばかばかしい。ウイッタンバーグの大学も、落ちたねえ。あの独自の科学精神を、どこへやった。もっとも、このごろ大学では、劇の研究が盛んなそうだから、中でも頭の悪い馬鹿な研究生が、そんな下手なドラマを案出したのかも知れないね。それ
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