立っているような気がしますけど。」
 ハム。「何を言うのだ。あれは、柳じゃないか。その下に幽《かす》かに白く光っているのは、小川だ。川幅は狭いけれど、ちょっと深い。ついこないだ迄《まで》は凍っていたんだが、もう溶けて勢いよく流れている。僕よりも、もっと臆病《おくびょう》だね。どうも文明国に永く留学していると、――」
 ホレ。「感覚も上品になるようであります。じゃ、誰も聞いていませんね? どんな大事を申し上げても、かまいませんね?」
 ハム。「いやに、もったいをつけやがる。僕がはじめから、ここは絶対に大丈夫だって言ってるじゃないか。それだから、君をここへ引っぱって来たんだ。」
 ホレ。「それでは、申し上げます。おどろいてはいけません。ハムレットさま。大学の連中は、あなたの御乱心を噂して居《お》ります。」
 ハム。「乱心? それあ、また滅茶《めちゃ》だ。僕は艶聞《えんぶん》か何かだと思っていた。ばかばかしい。見たら、わかるじゃないか。どこから、そんな噂が出たのだろう。ははあ、わかった。叔父さんの宣伝だな?」
 ホレ。「またそんな事をおっしゃる。王さまが、なんでそんな、つまらぬ宣伝をなさいま
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