は、お城の外の人たちまで褒《ほ》めちぎっているそうだ。ポローニヤスのような親から、よくもあんな器量よしが生れたものだと、けしからぬ、が、まあいい、そんな噂《うわさ》さえ、わしは聞いている。本当に、お父さんは、いまは仕合せな筈《はず》だ。何ひとつ不足は無い筈なんだが、オフィリヤ、聞いておくれ、お父さんは、このごろ、なんだか、ふっと、とても心細くなる時があるのだ。お父さんは、もう、死ぬんじゃないか。いや、おどろく事は無い。何も、無理に死のうと言うのではないBお父さんは、いつも、百歳、いや百九歳くらいまで、なんとかして生きていたいと大真面目《おおまじめ》に考えていたものです。レヤチーズの立派に出世した姿を見て、大いに褒めて、これでわしも全く安心したと断言して、それから死にたいと思っていました。慾《よく》の深い話さ。でも、お父さんは、本気にそれを念じていました。わしには、いま、わし自身の楽しみというものは何もない。ただ、お前たちのために、生きていなければならぬと思っていたのだ。母のない子というものは、どんなに可愛《かわい》いものか、レヤチーズだって、お前だって知るまい。わしは、子供のためには、
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