がよい。若い時の女遊びは、女を買うのではなく、自分の男を見せびらかしに行くんだから、自惚れこそは最大の敵と思っていなさい。さて、次は、――」
 レヤ。「賭博《とばく》です。五両だけ損して笑って帰る事です。儲《もう》けては、いけませんのです。」
 ポロ。「その次は、――」
 レヤ。「服装の事です。いいシャツを着て、目立たぬ上衣《うわぎ》を着るのです。」
 ポロ。「その次は、――」
 レヤ。「宿のおばさんに手土産を忘れぬ事です。あまり親しくしてもいけないのです。」
 ポロ。「その次は、――」
 レヤ。「日記をつける事と、固パンを買って置く事と、鼻毛を時々はさむ事と、ああ、もう船が出ます。お父さん、お達者で。むこうに着いたら、ゆっくりお便りを差し上げます。オフィリヤ、さようなら、さっき兄さんの言った事を忘れちゃいかんよ。」
 ポロ。「あ、もう行ってしまった。なんて素早い奴だ。でも、まあ、あれくらい言って置いたらいいだろう。送金の限度に就いて言うのを忘れたが、あ、散策の必要も言い忘れたが、まあ、また後で手紙で言ってやる事にしよう。おや、オフィリヤ、顔色がよくないよ。兄さんが何かお前に無理な事を
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